はじめに…

今度呪いのシリーズの新作で、新しいカイの仲間が出てくる話を書く事
になりました。 新しいといっても設定はずいぶん昔に考えたので、古
いファイルに彼の資料があるかな? と、ハロウィン時代のファイルを
引っぱり出したのが事の始まり…。

『へえ〜こんな話考えていたんだ』『あ、これ使えそう』『途中まで?
この先どうなんだ???』と、ほとんど忘れていたプロットやストーリ
ーの走り書きに読みふけり、最初の目的は忘れて、いつのまにか、なか
よし時代のファイルにまで手を出していたのでした。
そして見つけた3Pのプロット、タイトルは「ふたりめの神話U」
『そういえば昔こんな話を考えた…確かこの先は……』
前半はかなりいいかげんで荒いけれど、後半は…特にラストは、なかな
か…。『このラストを書きたくて話を作ったのかな? 』と思わせる程、
不覚にもグッときてしまった。 ツボだ〜〜〜
別の紙に少女マンガでは無理と書いてある。
そりゃ無理だろう、こんなシビアで暗い話、いくら感動的でも。
タイトルが決まらなかったらしく、また別の紙に『遠い森』やら『儀式』
だかがいっぱい書き連ねてある。
『う…ん荒野の兄弟≠カゃ西部劇みたいだし、兄と弟…いっそシンプ
ルに弟≠ナいいんじゃないか? …って何考えている!』

でも、2人の兄弟が頭の中でグルグル…仕事にならない。
しかたないので、とりあえず形にしてみることにしました。(こんなこ
としてる時間ないのに…後で地獄を見るのに)
きっと一気に最後までは無理だ、話は大きく2つに分かれるので、○が
死ぬまでと、それからに。 せめて前半きりのいいところまではと思っ
ています。

前回(ガーディアンSで)なれない縦書きで苦労したので、今回はもう
いつもの書き慣れているプロット形式(横書き)でいきます。 どーせ
プロットに毛の生えたものだし、とにかく――。
荒地の古い館に住む兄弟、サリムとマリクの物語の始まりです。




    



第一章 塔のある家

荒れた丘陵地帯――丘に並んで立つ巨大な三枚羽のメタル風車の群。
丘を一本の道が走っている。 道の先には低い煉瓦塀に囲まれた、古い
大きな屋敷……石造りの塔のある母屋の横には平屋のコンクリートの建
物があり、その上には鉄柱にささえられた大きな円柱形の給水塔が立っ
ている。 屋敷の裏手には小さな畑と、オリーブやいちじく等の木が何
本か茂っている。
畑ではスカーフをかぶった老女が、豆や葉野菜を採り入れている。
母屋の塔の窓から小さな男の子が顔を出して、丘に続く道を目をこらし
て見ている。
陽は傾き、夕暮れの風が乾いた土のにおいを運んでくる。
道の端から小さな点が現われ近づいてくる。
男の子は乗っていた台から降りると、危なっかしい足取りで急勾配のら
せん階段を降り、台所へ入っていく。
「かえってきた! クルマみえたよ」
野菜を洗っていた老女は手を止めてゆっくりふり返る。
「では、お茶の用意をしなくては」

庭先に大型のバンが止まり、年老いた小柄な運転手が降りて助手席のド
アを開ける。 かっぷくのいい白い長衣の老人がゆったりと降り、続い
て後部座席の、大きなスカーフを銀のブローチで留めた三十代後半の女
性が出てくる。
「おかえりなさい。 おじいちゃん、ママ!」
「いい子にしてた? マリク」「うん」
老人は、しっぽをふって近づいてきた大型犬の頭をなでる。
車から最後に、十四、五才の利発そうな少年が出てくる。
「おかえりなさいサリム」
弟の声を無視して、少年は大きなバックパックを手に、さっさと屋敷に
入っていく。
「サリム、おこってるの?」
「…ちょっと虫の居所が悪いみたいね」
一瞬、母親は顔をくもらせるが、すぐ「大丈夫よ、マリク」とにっこり
笑って男の子を抱きかかえる。
「あの年頃の男の子は気難しくて扱いにくい。 息子のマリクもそうだ
った」と老人。

町から車で一時間半、その間にサリムはだんだん口数が少なくなってい
った。
昔は休みの度に祖父の家に行くのが楽しみだったのに…。
サリムは町よりもさらに遠くの、海のそばの首都で生まれ育った。父親
がテロに巻きこまれて亡くなる八才まで。
それからすべてが変わってしまった。

父の死後、母とサリムは祖父の家に移り、八ヵ月後、弟のマリクが生ま
れたのだった。

「でも…2人目の子供って違法じゃないの?」
サリムの問いに祖父は悠然と答える。
「ここは首都とは違う。 首都の連中が勝手に決めた法律に素直に従う
者は、この地方にはいない。
…そうはいっても、他人に軽々しく話すんじゃないぞ」
時々町からやってくる親類に、祖父はマリクを見せ、2人目の孫を自慢
するのだった。

通学に3時間もかかっては学ぶのにも遊ぶのにも不便だからと、サリム
は自分からたのんで、中学校からは町の親戚の家に下宿して通っている。
週末にもめったに家に帰らず、季節毎の長い休みの時だけ家に帰るのだ
った。
祖父も母も用事や買い物で町に来た時は、サリムを尋ね一緒に食事をし
たりした。
今回は親戚の老人を見舞いに町の病院へ来た2人が、丁度週末になった
サリムを尋ね、一緒に帰ってきたのだった。
「明日はサリムの14才の誕生日でしょう。 プレゼントはもう用意し
てあるのよ」母の言葉に、サリムは友達と遊ぶ予定をキャンセルして家
に帰る事にしたのだった。
「もう、毎日マリクがうるさいのよ。 お兄ちゃんはいつ帰るのって」
車に乗り込む時に発した母の言葉に、サリムは心配の種を思い出してゆ
ううつになる。

母や祖父やみんなが小さな赤ん坊に夢中になるのが、八才の長男にとっ
ておもしろいはずがない。
最初はすねていたが、じきにそれが母を悲しませる事に気づいて態度を
改めた。 できるだけいい兄のフリをしようと努力したのだった。
遊び相手をし、絵本を読んでやったり…。
素直な性格の弟は、兄によくなついた。それなりにかわいいと思う時も
あったが、弟が母や祖父に甘えているのを見ると『正統な権利なんかな
いくせに』という思いがわき上がってくるのを、止めることができない
のだった。
フリをするのに疲れて、サリムは家を出たのだった。

翌朝、母はばあやと台所にいる。 2階の窓から裏の小道を行く祖父の
姿が見えたので、サリムはホールで話しかけてきた弟を無視して祖父の
後を追う。
祖父の朝の散歩コースは決まっていた。
家の裏手の小道を行くと、右手の丘の陰に一族の墓地の低い石垣が見え
てくる。
剣を手に馬を駆り勇敢に戦った先祖も、一帯が草の海だった頃、何百頭
もの羊を飼い財を成した先祖も、みんな白い石の墓標の下に眠っている。
サリムの父のマリクも。
小道の前に岩の壁が立ちふさがる。 その先は不毛の岩山が連綿と続く。
小道は岩壁にそって続き、しばらくいくと岩の割れ目がある。 元はも
っと狭かったものを人為的に広げてあるので、大人でも悠々と通れる。
薄暗い岩の間を10分も進むと突然視界が広がる。
校庭のグラウンド程の広さの窪地に、緑の木々が生い茂っている。
泉がわき出て小川を作り、流れは窪地を横切って又地下にもぐっていく。
岸辺には草花が咲き乱れ、鳥が種を運んだのか野イチゴが赤い実をつけ
ている。
小さい頃はよくここで遊んだ。 一日中、虫やカエルを追いかけてあき
なかった。
森という程の広さはないが、祖父も父も森と呼んでいた。
小川の流れを見つめていた老人は孫が呼びかけると顔を上げる。
「おまえも来ていたのか」
少年はそれには答えず、逆に祖父に尋ねる。
「法律が改正されたの知ってる?
2人目がいるのを知ってて黙ってた者も罪にとわれるって」
「なんだ、そんな事を心配していたのか。 大丈夫だ。
市長も警察署長も身内だ、余計な心配はいらん」
祖父は、この地方の長の家系の直系の子孫だ。
一族は町の要職を占め、『荒地に住むへんくつ老』と陰では呼ばれなが
らも、族長として祖父は今も大きな影響力を持っている。
「おまえは自分の好きなように生きろ。 おまえの父親のように外へ出
ていくのもいい、マリクの事は気にしなくていい」
祖父の声は力強く自信にあふれていたが、サリムの不安は消えなかった。
『でも、流れがもっと悪くなったら?
…それに、おじいちゃんに何かあったら? どうなるんだろう…』

3年後サリムの不安が的中する。
悪い風邪が流行っていた。 新型の悪性インフルエンザは今までのワク
チンがきかず、世界中で死者が出ていた。
町の病院はどこも満員で、サリムの通う高校も休校になったところだっ
た。
祖父が倒れ、発病して3日後に病院で亡くなったのだった。
葬儀はあわただしく執り行なわれ、参列した親戚知人の数も少なく、多
くの者がマスクをしていた。
一ヵ月後、流行が下火になり学校が再開されるまで、サリムは家で過ご
した。 弟の勉強をみてやり、やはり風邪で倒れた運転手のじいやにか
わって(彼は半月で回復した)車を運転したり、雑事を手伝った。
町へ戻る前の日の夜、サリムは母に訊く。
「2人きりで大丈夫?」
「2人じゃないわ4人よ、それに」母は暖炉の前に寝そべる老犬に目を
やる。「彼もいるわ」
「首都の大学に行くって決めたんでしょ、資格試験がんばってね」

翌年、サリムは首都の工科大学に入学する。
高層マンションでの都会暮らし、元々都会っ子のサリムは生活にすぐ慣
れ、大学生活を謳歌していた。
それでも冬と夏の休みには必ず家に帰った。
大学を出た後はそのまま、大手の(作業)ロボット製作会社に入りR(
ロボット)の改良・開発に頭を悩ました。
その頃から家に帰る度にサリムは、母がやせていくような気がした。無
理に明るく笑っているような…。
「もう仕送りはいいよ、給料で十分やっていけるから」
ある日思いきって言ってみる。 母は笑って言った。
「あれはおじい様があなたへと残してくれた分よ、余計な心配はしない
で。 知ってるでしょ、おじい様は土地や株や工場を全部わたしに残し
てくださったこと」
「うん、…ただし再婚したらすべて息子サリムのものになる。 との条
件付きでね」
「ホント、そんな心配ぜんぜんないのにね」

その後で、ばあやから聞いて知ったのだが、祖父の死後、母の元へは次
々に求婚者がやってきたという。 だがみんな祖父の遺言の条件をきく
と帰っていったのだった。

そのばあやは、サリムが帰り支度をしているとやって来て、小声で言う。
「サリム様がいる時には誰もこないけれど、親戚の方達は時々みえるん
ですよ。 その度に奥様は考え込んでおられるようで、心配事があるな
ら相談して下さればいいのに…」
ばあやが帰った後、マリクがガラスケースを手に入ってくる。
「できた! サリムが帰るのに間に合わせようとがんばったんだ」
ガラスケースの中には古い船の模型が、マリクは最近プラモデルに夢中
だった。
「ヤマトっていうんだ、船だけど宇宙船なんだ。 キットはニホンから
取りよせたんだ」


第二章 暗雲

祖父が死亡したインフルエンザの大流行以来、世界は不景気で社会不安
は深まるばかりだった。
華やかな首都も旧市街はスラム化し、失業者やホームレスであふれてい
た。
サリムの暮らすマンションは旧市街とニュータウンの境にあった。
マリクにもらった船のミニチュアは玄関横の棚に飾った。
訪ねてきた友人の一人はそれを見て叫び声をあげた。
「すげえ、これ誰が作ったんだ? どこで手に入れた?」
「…知り合いからもらったんだが」
「そいつが作ったのか?」「いや―― 確か…フリマか何かで買ったと
か」
「くーっ、価値の分らんやつが売ったんだな。 これは名人の作だぞ」
「名人?」
「見ろこの重厚感、この色の塗り重ね具合、天才的だぞ。 このクオリ
ティ! この質感は出そうたって出せるもんじゃない…センスが違うん
だな…」
友人はしみじみと船の模型に魅入っている。
「…そんなに気に入ったのならやるよ」「いいのか!?」
「ああ、元々、玄関の飾りに丁度いいからもらってきただけだから」
「ボーナスが出たらおごるからな!」

『今度帰る時には、プラモデルのキットをみやげに買っていってやるか
…』
サリムがそう思いながら社員食堂で昼食を食べている時、壁のテレビが
首相官邸が軍隊に包囲されたとの臨時ニュースを伝える。

軍事クーデターは4日で失敗に終わる。
官邸を囲んだ軍隊をさらに多くの市民が取り囲んだからだった。
民衆の数は日を追ってふくれあがり、兵士は上の命令を無視してさっさ
と降伏した。
これを機に、祖父がいうところの首都派の連中は支配力をさらに強め、
すでにいくつかの国で実施されていた食料の配給制が始まる。
「うちは畑があるから全然影響ないわ」
母は笑って言ったが、その顔は前よりもやつれていた。

母が倒れて病院へ運ばれたと、ばあやから連絡が入ったのはそれからま
もなくだった。
医者は最悪の結果をサリムにつげた。
手のほどこしようがない、もって一ヶ月だと――。
サリムは会社に休職届けを出した。
母親は強引に家に帰った。表向きは病院のベッドで死ぬのはいやだとい
う理由だが、本心はマリクの事が心配なのと、後になって入院費の事も
心配していたのだろうとサリムは思った。

母親が帰ってきて、マリクは喜んだが、サリムに病状を説明されてあお
ざめる。
「ママ…死ぬの? おじいちゃんみたいに? ハルみたいに?」
ハルは去年死んだ老犬だ。
「そうだ…」
弟はうつむいたままじっと黙っている。
しばらく待ってから、サリムが部屋を出て行こうとすると、弟がつぶや
くように言う。
「ぼく……どうなるの?」
「…考えておくよ」

母親は日に日に弱っていく。
痛み止めもだんだん効かなくなる。マリクは母親につきっきりだ。
サリムは自分の車で町へ行く。
サリムは一年前に、小型のスポーツカータイプの車を買った。(まだロ
ーンが少し残っているが)
この車だと町へ1時間とかからない。
病院へ行った後、弁護士に会う。
財産の管理をしている遠い親戚の弁護士は、サリムに母の財産がほとん
どない事を知らせる。 みんな次から次に手ばなしたのだという。
「もちろんお止めしたのですが…、特に株など今売るのは損だと…」
ショッピングセンターで買い物をしながら、サリムは考える。
『その金は、どこに消えたんだ?』

その夜サリムはばあやを呼びとめ、何時間もかけて話を聞く。
自分がいない時間をねらって、母をたずねてきた親戚達――いつ、誰が
来たのか覚えている限りの事を教えてほしいと。

サリムが家に戻って丁度二十日目に母は逝く。
その数日前、サリムが仮眠を取っていると(この頃になると夜も交代で
誰かが母についていた)マリクが母が呼んでいるとやってくる。
「ママが、サリムにだけ話があるって――」
容態が安定している時は、母の声はしっかりしていた。 サリムに机の
引き出しを開けるようたのむ。 引き出しの中には少しかさばった茶封
筒が入っている。
「中は1人で見て…特にマリクには見せないで…
ばあやにたのもうかと思ったけど…やっぱり、これはあなたにたのむし
かないって…ごめんなさい、本当はわたしが…決めてたのに。
こんなに…急に体が…」
顔がゆがみ声がかすれる。
「無理にしゃべらないで――
安心して、母さんの望み通りするから、約束するよ」
「ごめんなさいサリム…あなたに…ばかり……」

「ママの話って何だったの? 」
廊下に出ると弟が走り寄ってきて尋ねる。
「おまえには関係ないよ」

部屋に入ってドアをきっちり閉めたのを確かめてから封筒を開ける。
中には手紙と小さな茶色の小瓶が入っている。
手紙の文字はかなり乱れている。
  『ごめんなさいサリム
   おじい様からあずかった、いずれあなたに渡すはずの
   財産をほとんど使ってしまいました。
   あなたにはいくらあやまってもあやまり足らない
   これ以上あなたに迷惑はかけられない。
   本当はもっと早くマリクを連れていくつもりでした。
   でも決心がつかなくて、ここまできてしまった。
   サリム最後のお願いです
   同封のびんの薬をあの子に飲ませてください。
   食べ物かお茶にまぜて
   そう苦しまずに死ねるはずです。
   サリム
   だんだん父親に似てくるあなたの成長を見るのが
   いちばんの楽しみで心のささえでした        』

母親は翌日から意識不明になり、時々うわ言で息子達の名を呼ぶだけで、
目を覚ますことなく、そのまま息を引きとった。
母親が亡くなったのは明け方だったが、その数時間前、サリムは弟に耳
打ちし、自分の部屋にさそう。
弟は涙をぬぐいながらついてくる。

サリムは弟に母の手紙を見せる。
手紙を読み終わったマリクは、驚いたような、何か訊きたげな顔でサリ
ムを見る。
サリムは黙ったまま机の小瓶に目をやる。
「……わかった、ぼくもママと一緒に行くよ…」
マリクはサリムに手紙を返すと、茶色の小瓶に手を伸ばす。

母の死後一日半たってから、サリムは町の大おじに連絡する。
大おじは祖父の従姉妹で市会議員をしている。 上の息子は父の製肉(
人造肉)工場をつぎ、下の息子(当時は税金を払えば複数の子供が持て
た)は計理事務所を開いている。
サリムは中・高校生の間、彼の家に下宿していたのだった。
「この度は…」と定まりのあいさつをして中に入る。
居間に足を踏み入れた大おじは並んだ2つの柩に怪訝そうな顔をする。
周りを見回し、『まさか――』という顔をする。
「マリクはどこだ? …あの柩は…」
サリムはうなずいて、黙って母の手紙を見せる。
「それをマリクに見せたら、母と一緒にいくといって、薬を飲みほした
んです。 …確かに苦しみは短かった、死顔もきれいなものです。 見
ますか?」
大おじは首を振る。
「それで――この後の段取りは?」
「先程ドクターに来てもらって、母の死亡診断書は書いてもらいました。
埋葬の許可はこれからです。
葬儀は明日――できるだけ少人数で、密葬にしたいと思っています。
大おじさんに他の人へ連絡してもらえませんか? できたら力のある男
手4,5人に声をかけて下さい」
「力のある?」
「墓掘り人夫の代わりです。
ご存知でしょう? 今の法律では2人目がいるのを知っていて黙ってい
た者も厳罰に処せられます。 しかも時効は20年…。
身内以外は信用できません」
「うむ…そうだな、こういう時勢だし…用心にこした事はない」
「ええ、だからぼくはマリクの柩は、すぐにでも掘り返して別の場所に
埋め直しておこうと思ってます。
それくらいしないと安心はできないですからね」

葬儀には20人程の男性が出席した、皆見知った親戚の男性だ。比較的
若い男性や体格のいい中年の者が何人かシャベルやつるはしをふるう。
少し離れた所で大おじの妻と数人の年配の女性が固まって立っている。
皆よく似た、長い足首まで届きそうな黒に赤いふち模様のショールを頭
からかぶっている。
「じゃ、誰も顔を見ていないのね?」
「やつれ果てた顔を人に見られたくないって、生前いってたからだって」
「その気持ちわかるわぁ…」

少しづつ深くなっていく穴を見ながら、サリムは母が死んだ日の事を思
い出していた。
ばあや(彼女はじいやと留守番をしながら、参列者を運んできた運転手
達に茶をもてなしている)と2人で母を清めた。
体をきれいに拭き、香油を塗り、ばあやが詰め物をしている間にサリム
は2階へスカーフを取りにいった。 母の部屋の大きな衣装箱から持て
るだけのスカーフやショールを引っぱり出した。
その時サリムは母の宝石箱に目がいく、中を見ていくつかあったはずの
宝石が消えているのに気づく。 残っているのはガラス玉のアクセと昔、
父が初めてプレゼントしてくれた品で、気に入ってよくつけていた銀の
ブローチだけだった。
「…まあ、これさえあれば、さみしくはないか…」

2人で母に白い長衣を着せ、スカーフやショールをしきつめた柩の中に
横たえる。 さらにまわりをスカーフで飾り、最後、胸元に集めてブロ
ーチで止める。
「まあ…こうしてると以前のまま…」ばあやが涙ぐむ。
サリムは1人になっても、しばらく柩のそばから動かなかった。
やせこけた頬をスカーフがうまくかくしているので昔のように美しい。
サリムは昔以上だと思う。
すべての苦しみから解き放たれて、穏やかな顔をしている。
『こんなきれいな母さんは初めてだ』
母親の死顔をしっかりと目に、心に焼きつける。
『これはぼくだけの母さんだ。
もう誰にも見せてやらない、特に、あんなやつらには!』
最後に冷たい母親の唇にキスをして、フタをしめ、早々に釘を打ちつけ
たのだった。

葬儀の後で大おじがたずねる。
「ところでサリム、いつ頃首都に帰るつもりなんだね」
「トーブン先です、しばらくこちらでやる事があるので。
遺品の整理とか調べものとか…場合によっては、ずっとこちらにいるか
も知れません」


第三章 シェルター

葬儀から3日目、大おじが自分で車を運転して荒野の家にやってくる。
サリムは門まで迎えに出て『今ばあや達が町まで出ているので、何のも
てなしもできないがようこそ』とあいさつをする。
「実は…君が何か勘違いをしているんじゃないかと気になって…それで
少しわけを話しておきたいと思ってね」
「勘違いって、何をですか?」
「その――3年程前になると思うんだが…家をちょっと――改築してね。
君のお母さんにその費用を借りたんだ。 もちろんわたしはちゃんと借
用書を書くといったんだが、彼女が困った時はお互い様だ、返すのはい
つでもいいと…それで、つい甘えてしまって…」
サリムは黙って話を聞いている。
「あの時は息子の工場が上手くいってなかったり、孫が入院したり、い
ろいろ重なって大変だったんだ。
今すぐは無理だが、あの時都合してもらった金は少しづつでも必ず返す
から」
「母がいつでもいいと言ったのなら、それについて息子のぼくがどうこ
ういう事はありません。 気にしないで下さい。
ただ、ひとつだけ頼みがあります」
「何だね? わたしにできる事なら何でも――」
「できたらもう二度とこの家に来ないで下さい」

サリムの考えた通りだった。
マリクの事を知っている親戚達は寄ってたかって、祖父の財産をかすめ
盗ったのだ。
大おじには明白な脅迫の意図はなかったのかもしれない。 それでも重
大な秘密を知っている者から、困っているので助けてもらえないかと頼
まれて、断れるだろうか?
しかもそれが無理なく払える額なら?
一回に払う額は大したことがなくても、それが何十回何百回と重なった
ら?
ばあやが覚えているだけでも、母をたずねてきた親戚は五十人近くいる。
たいていの者が何度も来ている。 ばあやの留守に来た者や、町で会っ
ていた者もいるだろう。
葬儀に参列した者は、みな一度や二度は母をたずねている。 男も女も、
そうやって母から奪っていったのだ。

祖父は町に土地やビルを持っていたが、残ったのは一文にもならない広
大な荒地と五百基もの風車の権利の30%(残りは電力会社が)だけだ
った。
きっと彼らは母が倒れなければ命綱の風車の権利も奪っていった事だろ
う。

『自分がいたら、――絶対こんなマネはさせなかったのに!』
法律を逆手に、逆に相手を脅してやる。
万一自分がつかまったら、一族みんな知っていたとはっきり証言してや
る。 堕ちる時はみんな一緒だ!――と。
きっと本当につかまっても、そんな事はしないだろうが、恐喝者にはそ
れくらいのハッタリが必要だ。
『母さんにはそんな強さはなかった…』
何もかも無くなったら、母はマリクを連れて旅立つつもりだったに違い
ない。 ただ、恐喝者よりも、病の方が足が早かったのだった。

『母さんは、はじめからあきらめていたのかも知れない…』とサリムは
窓から、走り去る大おじの車を見ながら考える。
『はじめっていつだ? 最初に無心にきた者に金を渡した時?
病気の徴候を感じた時?
それとも…もしかして、おじいちゃんが死んだ時から?』
いくら疑問を投げかけても、もう答えてくれる人はいない。
車が丘の向こうに消えて、戻ってくる気配がないのを確かめてから、サ
リムは台所へ行き、壁の通話機を手にする。
「もういいよ、客は帰った」

食器棚の横の地下への階段に通じるドアが開いて、大きめのTシャツを
着たマリクが顔を出す。
「もう終わったの? 意外と早かったね」
「大した話じゃなかったからね」
サリムはテーブルの上のかごのオレンジを手に取り、ナイフで切れ目を
入れて皮をむく。 半分に割り「食べるか?」と弟にさし出す。
マリクはオレンジをそのまま口に入れ、思いきりふくらんだ頬をモグモ
グと動かしている。 そのうちかむのにあきたのか、顔を真赤にして無
理矢理飲み込み、ハーッと大きな息をつく。
サリムはその様子を、あきれて食べるのも忘れて見ている。
『まるで子供だ…本当にこんなのとうまくやっていけるのか?』

「…わかった、ぼくもママと一緒に行くよ…」
マリクの手が小瓶に届く前に、サリムはサッと小瓶を取り上げる。
「サリム?
返してよ! ぼくのだ!」
「あっさりそうさせるために、わざわざ手紙を見せたんじゃない。
おまえの本音を聞きたいんだ」
「ホンネ?」
「おまえ、本当はどうしたいんだ?
本当にママと一緒に行きたいのか? 本心はもっと生きたいと思ってい
るんじゃないのか?」
「ぼくが1人じゃ生きられないの、知ってるくせに!」
「じゃ1人じゃなくて、誰かそばにいたら?」
「いじわるしないで返してよ!」
「ぼくが家に残るといったら、どうなんだ?」
「!?」マリクが驚いてサリムを見る。
「そりゃあ、おじいさんや母さんのようにはいかないけど…、できるだ
けのことをするといってるんだ」
マリクは黙っている。
「ぼくじゃだめなのか?」「…だめだよ…」
「そんなにきらいなのか?(そりゃいい兄とはいいがたいが)」
「…ちがう、ママが――
ママはいつもサリムを困らせるなって、絶対これ以上迷惑をかけるなっ
て!」マリクは顔を真赤にして、サリムをにらみつけている。
「そうだよ、ママはいつもサリム、サリム!
いつだってそうなんだ。遠くにいても、ママの一番はサリムなんだ!
サリムなんかきらいだ〜〜〜」
そう叫んでマリクは床につっぷし泣きじゃくる。
サリムはあっけにとられてマリクを見下ろしている。
『どういう事だ?』
母はいつもマリクにつきっきりだった。
たまに2人きりで町で食事をしたり、買い物をしていても、母の心は遠
くを向いているようでイライラした。
自分に笑顔を向けて話していても、本当はマリクの事を心配しているん
だと…。
『母さんは、いつもそばにいない子供の心配をしていたのか?』
その時突然、サリムの頭に真相がひらめいた。
『そういうことか――ハハ、何てことだ』
サリムは笑い出す。
兄が急に笑い出したので、マリクはびっくりして涙が止まる。
「…何がおかしいの?」
サリムはベッドに腰をかけて息を整える。
「こんなバカバカしい話があるか!
ぼくはずっと…母さんにはマリクが一番なんだと思っていた」
「!?」
「そんな…床に座り込んでないで、こっちにこい」
マリクは素直に立ち上がりベッドの端に座る。
「あの手紙にあっただろう?
ぼくがパパに似てくるのがうれしいって。
母さんの一番はずっとパパだったんだ!」
「パパ?」
「今も昔も――永遠に、不動の一番!
ぼくらはきっと、同率二位なんだ。どんなにがんばったって、どんなに
望んだって、絶対一位にはなれないんだ! 最初からそうだったんだ!
…不毛の椅子取りゲームに、十七年間夢中になってたなんて…笑わずに
いられるか?」
「ママは時々、パパの話をしてくれたけど…パパってよくわからないや」

「今はパパもママも置いておいて…特に、ママの言ったことは考えない
で――それだったらどっちがいいんだ?
.あっさり死ぬのと、こっちで苦労するのと…
本当のところはどうなんだ?」
マリクはしばらく床の絨毯を見つめて黙っていたが、遠慮がちな小さな
声で、それでもはっきり言った。
「サリムがいいというなら…ぼくは、こっちにいたい――」

「わかった」
サリムは立ち上がって、ザッと考えを巡らせる。
「…そうなると、いろいろやることがあるぞ…泣いてるひまなんかない」
「何をやるの?」
「おまえはまず…下に行って、母さんに最後のお別れをしてくるんだ。
それから自分の部屋に戻って、死んだフリをするんだ」
「死んだフリ?」
「2人目は死んだと、親戚連中には思い込ませるんだ。 そうでもしな
いと後がうるさいから。
ずっとじゃないが、場合によっては何時間もじっとしてなきゃならなく
なるが…やれるな?」
「うん――」
「ばあやには話して協力してもらうが、じいやには…だまされてもらう。
おまえの死体を見せて…本人は隠しているが、最近目や耳が弱っている
んだ。――きっとうまくいく。
下に行ったら、ばあやに話があるから来てくれと伝えてくれないか」

ばあやを説得して、一緒に母が寝ている部屋に入る。
弟はそばの椅子に浅く座り、両手で母の手を握りしめている。
今にも切れそうな細い息。
「もういいだろう」
サリムが上へ行くよう目で合図する、マリクは無言で部屋を出て行く。
最後に一度振り返って――。

母はその2時間後に旅立った。
いまわの際に目を開け、何か一言でも言ってくれないかと期待したが、
そういう事は起きず、本当に消えるように死んでいった。
サリムは握っていた母の手をそっとおろし、首を振る。
二人の老人は少し後ろに立っていた。二人は古い祈りの言葉を口にする。
「では、マリク坊ちゃんに知らせてこなくては…」
ばあやは出て行き、戻ってきて「坊ちゃまは、奥様が連れていきました」
と告げる。

プラモデルやジオラマでいっぱいの、ごちゃごちゃした部屋の奥のベッ
ドに、マリクが横たわっている。
「…きっと奥様はずっと前からこう決めて、坊ちゃんに言いきかせてた
んですよ。 もう半年も前に2つ分の柩の材料を取り寄せてましたから
ね」とばあやは涙ぐみながら話す。
「かわいそうな下の坊ちゃん…」じいやの目から涙がハラハラとこぼれ
落ちる。
「…だが、これでよかったんじゃ…
そうとも、これが一番いいんじゃ……」

老人の足取りにあわせてゆっくりと階段を降りながら、サリムはたずね
る。
「…その柩の材料はどこに?」
「物置(平屋)に」じいやが答える。「これから組み立てます、急いで
――」
「ぼくも手伝うよ」
「町のみなさんへはいつ知らせます?」
「明日にしよう、今日はぼくらだけで静かに見送ろう」
サリムとじいやは柩を組み立てたが、ほとんどサリムがやったと言って
もいいくらい、老人の力は衰えていた。
サリムは出来上がった柩にマリクを横たえ、適当に選んだいくつかのプ
ラモデルを入れてフタをした。 
もちろん、じいやのいないスキに、マリクを出して、ばあやが用意した
同じくらいの重さの砂袋を入れ、釘を打ちつけたのだった。

サリムが小声で柩の中の弟に声をかけ、今のうちに2階に行き、しばら
く物音をたてずじっとしているよう命令する。「灯りもだめだぞ、わか
ってるな」
弟は黙ってうなずくが、ちらっと柩の中を見て「これはだめ」とプラモ
デルのひとつを手にすると、その奇妙なフォルムのロボット人形を、大
事そうにかかえたまま忍び足で部屋を出ていった。

だからじいやは、2つの柩が家を出る時も本気で涙を流し、
「これでいいんじゃ…これが一番…」と何度もつぶやいていたのだった。
自分に言いきかせるように…。

オレンジを食べながら、サリムは壁の時計を見る。
「今頃は検査中かな…」
「じい、なおるといいね」
腰痛の悪化した(柩を用意している時に痛めたのが原因らしい)じいや
をタクシーを呼んで町の病院へ行かせたのだが
「こんなもの湿布をして、寝てりゃなおる」としぶる老人を説得して、
車に乗せるのは一苦労だった。
「年齢からきたんだろうから、完全には無理だろう…
どっちにしろ、じいやに仕事はもう無理だ」
「うん…誰か新しくやとうの?」
「そのことについてはいろいろ考えている…これからどうするかも…。
マリク、おまえこの家にシェルターがあるの知ってるか?」
「シェルター?」
「地下室のさらに下にある地下室だ、昔先祖が作ったんだ。百年以上も
前に」
「壁の棚が動いて、階段降りてくとこ? だったら一回おじいちゃんと
入ったことあるよ」
「あそこをおまえの新しい部屋にしようかと考えているんだ」
「やだよ★ あんなカビ臭いとこ!」
「あのままじゃない、ちゃんときれいにして…びっくりするような部屋
にしてやるよ」
サリムはまた時計を見る。
「今のうちにシャワーを浴びておいたらどうだ? じいやが帰ってきた
ら部屋で大人しくしていなきゃいけないんだから」
「うん、わかった」
マリクが出ていくとサリムも立ち上がり、先程マリクが出て来たドアを
開け地下へ降りていく。
地下室の両側には食料貯蔵庫やボイラー室等が並び、奥は広い物置にな
っている。
物置には古い絨毯や家具やガラクタが、山と積みこまれ埃をかぶってい
る。
入口近くの壁際に、やはり埃をかぶった雑貨の並んだ大きな棚がある。
壁の隠しボタンを押すと、棚は横にスライドし、地下へ続くコンクリー
トの階段が見える。
サリムは懐中電灯を手に、ゆるやかな長い階段を降りていく。
階段の先の重い扉を押し開ける。

中は広く、片側にテーブルや椅子がおかれて、本棚にはクラシックな書
籍が並んでいる。
広間に2つの小部屋、台所、洗面所、奥には機械室と倉庫――倉庫には、
その昔運び込まれたままの食料がびっしり詰まっている。
サリムは機械室に入り、設備をざっと見回した後、パイプ棚の品を確認
する。工具や部品にまじって、ぶ厚い本が一冊――サリムはその埃だら
けの本を手に取り、部屋を出る。

「その本そんなにおもしろいの?」
「もしかして、それ全部読む気?」
「サリムこそシャワー浴びてきたら? 埃っぽいよ」
何を言ってもサリムが上の空の返事しかしないので、マリクはあきらめ
てポケットから小型ゲーム機を出して遊び出す。
しばらくしてサリムは顔を上げ一息つく。
「ねえ、そんな古い説明書、役に立つの?」
「ああ、耐久性には絶対の自信あり、百年保障とある。システムはまだ
生きてる可能性がある。
地熱発電で地下水を汲み上げて…食料さえあれば、あの中で快適に暮ら
せるようになっているんだ。
地下水が涸れてたらだめだが…この辺の水脈はまだ生きているから大丈
夫だろう」
「水脈が生きてるって、どうしてわかるの?」
「うちのポンプはちゃんと水を吸い上げてるし、何よりあの森の泉は地
下水がわき出ているんだから」
「あ、あの森、よくおじいちゃんと行ったんだ!
サリムとも行ったよね」マリクの声ははずんでいる。
『勝手についてきたのは、一緒に行ったとは言わないだろう』とサリム
は心の中で思うが黙っている。(母がいない所では、サリムはけっこう
いじわるで弟を邪険にあつかった…)
「でもおじいちゃんが死んでからは、あまり行ってない――ママが、ぼ
くが外に行くと、ものすごく心配するようになって。 
だからぼく、ママが町に行ってる時に、何回か内緒で行ったんだ」
「マリク、もう外へ出るのはあきらめるんだ」
「?」
「…ママはおまえに説明しなかったのか?」
「何を?」
「法律が強化されて、2人目はつかまったら、それまでのように強制労
働じゃすまない。 処分される、――殺されるんだ」
「………サリムは?」
「財産没収、一生強制労働。
反社会分子として強制収容所に送られる。うわさではそこに送られたら
長生きはできないそうだ」
マリクは黙り込み、サリムは少し口調をやわらげてつけ加える。
「だからシェルターが、必要なんだ」

後は明日にしようと、本を閉じて、サリムはベッドに入る。
明かりを消しても、いろんな考えが頭を巡って眠れそうにない。
会社はやめて、落ち着いたらこちらで仕事をさがそう。
じいやの腰痛は少しはよくなっても完治することはない…。
口が固く信頼のおける有能な使用人――サリムは当てがないこともなか
った。
『でもそれには、まとまった金がいる…』
祖父が残したサリム名義の資産が少しはあるが、それではとても足りな
い。
『風車の権利を売るか?』
できればそれはしたくない、月々に入る金はそう多くなくても、長い目
で見れば持っていた方が有利だ。 それに自分の土地に、完全に他人の
ものが大きな顔をして居座っているというのは、あまりいい気はしない。
『他に売れるような物はないか…』
改修を重ねた古いだけの屋敷…200年はたっているという。 塔はも
っと古い。 蛮勇の時代に、敵の襲来を見張るために建てられたものが元に
なっているらしい。
『あのシェルターはいくらしたのだろう? 恐ろしく高価な買い物だっ
たはずだ…売れるはずもないし、売る気もないが…』
めったに使わない食堂の大テーブル…それなりの値では売れるだろうが
…。
古い家具…古い…
暗闇の中、サリムはいきなり半身を起こす。
「あるじゃないか、この家には財産が!」





後編へ続く




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